こだわる大人の特選グルメ
ちょっと足をのばして行きたい郊外のレストラン
そこでしか味わえないひとときを求めて、休日は家族や大事な人と郊外へドライブに出かけたい。
その地の風土を感じながら、知られざる新たな味に出合える珠玉の料理店へ。
創作料理
【三重・桑名】KiKi
シェフのこだわりや素材への愛着が詰まった
芸術品のような色とりどりのメニュー
 目の前に運ばれてきた前菜は、色とりどりのキューブ。オレンジ、紫、黄緑、ピンク、黒……カラフルな色合いは、野菜由来。季節の野菜をピュレ状にし、葛やゼラチンで固めたものなのだそう。食べるのが惜しくなるほどかわいらしい料理を食べ進めていくと、一粒一粒の味がすべて違う。ピュレに用いる野菜の味だけでなく、ニンジンを使ったオレンジ色のキューブの上に乗っている球体の中には海鮮類のムースが、シャドークイーンを使った紫色のキューブにはジャガイモとイクラのムースといった具合に、味とりどり。口に運ぶごとに楽しくなってしまう。
 そのあとに続く魚料理、肉料理もシェフのこだわりや素材への愛着が込められている。例えば、肉料理にはオランダ産仔牛の身質のやさしい味を生かすため1時間低温調理をし、しっとりジューシーな火入れ具合に。これをさらに青菜のクレープ生地で巻くなどしてオーブンで仕上げる。イカや伊勢海老を使った魚料理も、その姿は見えないのに風味はしっかり感じられる。細やかな調理をしているため、素材自体の味は生かされているのだ。
 料理に使う野菜は、自家農園で無農薬栽培をしている。「大変では?」と尋ねると、「料理に関しては、何も苦にならないんです。食材や料理ととことん向き合えば、その分、お客様の反応が返ってくる。むしろ楽しいです」。
 そう語るシェフは愛知県の離島・佐久島で育ち、料理人である父の元で感性を磨いてきた。大阪、フランスの料理学校で学び、卒業後は父の店でスーシェフを務めた後に独立。ジャンルにとらわれないフュージョン料理を提供する同店を切り盛りしている。もちろん店名は名前の嬉々が由来だ。しかし、もう一つ意味があるという。
 「海外では研修生のことをキキと呼ぶことがあるんです。それで、自分はいつまでも未熟者であるということを忘れないために、この店名を付けることにしました」。
 細部まで神経が行き渡った料理は、シェフのストイックな姿勢があるからこそ。そんな料理の数々が、今日も客の心を弾ませる。
上写真:肉料理。オランダ産仔牛のイチボを使ったメイン。10種類並べた付け合わせには、紅くるり大根、青大根、ニンジンなどのサラダを小さなブーケ状に仕立てるなど、季節の野菜をたっぷりと添えた。
※¥7,500(税別)コースの一例
中写真:「自分の目で確かめた安全な食材を提供したい」と自家菜園を持ち、完全無農薬で野菜を栽培。カブや小松菜、紫イモなど季節ごとに様々な野菜が採れる。
下写真:オーナーシェフの水谷嬉々さん。
1991年三重県桑名市生まれ、愛知県佐久島育ち。辻調理師専門学校卒業後、同グループのフランス校へ。父が営む『満愛貴』(名古屋)でスーシェフを務めた後、2014年、かつて『満愛貴』があった場所で『KiKi』を開店。趣味は釣り。
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