こだわる大人の特選グルメ
ちょっと足をのばして行きたい郊外のレストラン
そこでしか味わえないひとときを求めて、休日は家族や大事な人と郊外へドライブに出かけたい。
その地の風土を感じながら、知られざる新たな味に出合える珠玉の料理店へ。
フレンチ
【愛知・常滑】ル・クーリュズ
生産者との繋がりが、おいしいひと皿を生む
 中部国際空港のちょうど対岸にあたる伊勢湾沿い。県道252号線から一本入った住宅街に“電話が繋がりにくい”完全予約制のレストランがある。オープンして間もなく1年半。口コミで少しずつ評判が広がり、県外や外国からも客が訪れる人気店へと成長した。辺鄙な場所にありながら、多くの食通を引きつける理由とは。
 まず主人の渡邊大佑さんの料理は、素材集めから始まる。「知多半島周辺は魚介類だけでなく、肉や野菜にも恵まれています。しかも、近くには酢や味噌を醸造する蔵もある。ここで営業する利点は、生産者との距離が近いことです」
 それゆえ、渡邊さんは少しでも時間があれば、生産者を訪ねて意見を交わす。どんな思いで仕事と向き合っているのか、どう調理したらおいしくなるかなどを聞き、作業を手伝うことさえも厭わない。
「現地で食材と向き合っているうちにレシピが思い浮かぶんです。だから僕にとっては、生産者の方と会う時間も料理の大切な工程のひとつ。何より、みなさんと一緒に作っている感覚が楽しいですね」
 この言葉からわかるように、渡邊さんが作る料理はあくまで素材ありき。そのうえで、知多半島ならではのひと皿に仕立て上げていく。例えば、フレンチに欠かせないワインビネガーを使わず、地元の醸造蔵が造る酢を活用。サラッとやさしい味わいの純米酢は魚介類などのマリネに用い、コクと旨味が強い純粕酢はソースに生かす。味付けも愛知県産の醤油や味噌をベースにするなど、郷土の味を見事にフレンチと融合させている。
 そして、驚くべきはその価格。名古屋で同じことをやった場合の半額だそうで、「これなら、わざわざ常滑に来てもらえるでしょう?」と渡邊さん。18年10月から本格的に自家菜園を始めて、店を不在にする時間が長くなったが、予約の電話は諦めずに掛け続けてほしい。その価値がこの店にはあるのだから。
上写真:オーナーシェフ渡邊大佑さん。名古屋のフランス料理店などで修業後、結婚式場や地元のビストロで料理長を歴任。昨年独立した。
中写真:パプリカとなすのミルフィーユ仕立て。パプリカはソテーして甘みを引き出してから三河の有機みりんで煮込み、赤は純米酢、黄色は純粕酢でそれぞれマリネに。
下写真:池ヶ平牧場から届いたプレノワールのローストモロヘイヤのソース。肉質がきめ細かいプレノワール(黒い鶏)の胸肉にはタイムを合わせ、フライパンで軽く焼いてからオーブンでロースト。
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