こだわる大人の特選グルメ
ちょっと足をのばして行きたい郊外のレストラン
そこでしか味わえないひとときを求めて、休日は家族や大事な人と郊外へドライブに出かけたい。
その地の風土を感じながら、知られざる新たな味に出合える珠玉の料理店へ。
和食
【愛知・豊田】粋季
素材そのものの味をいかした、
“己だし”で仕上げる繊細な和食
 以前は豊田市駅界隈で和食店を営んでいたが、2020年3月に自宅の一部を改装。昼は父親が営む鰻の店、夜は肩肘はらない和食店として地元の豊田を中心に親しまれている。
 ホテルで15年技を研鑽した主人の加藤雄介さんが最も大切にするのは、和食の礎となる“だし”だ。ベースのだしは、京都産の鰹節と北海道利尻産の昆布を使用。「京都の鰹はきれいに澄んだだしがとれ、旨みが濃い。利尻の昆布は味わいが深い上に縮れていないので、昆布締めなどにも使えます」というのがその理由。これらを絶妙な温度で煮立たせて、一番だしをとる。「少し温度を下げてから鰹を入れることで、濁りのないだしができます」と加藤さん。一口いただくと、まず抜けるような鰹の芳香が広がり、その後に雑味がないすっきりとした味わいが広がる。丁寧にとったこれらは、素材の味をくっきりと、あるいは優しく引き立てる立役者だ。
 また加藤さんは素材自身が持つ旨みをそのままだしに使用する。例えば冬に旬を迎えるカブを下茹でした汁で、牡蠣を炊き、牡蠣蕪を仕上げる。カブから出る滋味豊かな甘みと牡蠣のコクが感じられる上品な味わいは、思わず感嘆するほどの美味。「素材自身から取れるだしを、“己だし”と呼んでいます。いい素材からはいいだしが取れる。ほんの少し塩を加えて調えるだけで、きちんと味が決まるのです」と加藤さんは自信をのぞかせる。
 料理はこれらのだしをベースにしたコースが基本で、加藤さんのセンスが際立つ。柔らかいあんこうの肝に歯ごたえのある大根を加えたムースや、すき焼き風の割り下を添えた飛騨牛のステーキなど、味わいや食感に新鮮な驚きがあるものばかりだ。さらに祖父の代から受け継がれる技で焼き上げる鰻はカシューナッツをペーストにしてだしとともに小鍋に仕立てる。「こんな組み合わせがあったのか」と感動させられるとともに、次にどんな味に出会えるか、何度でも足を運びたくなる店だ。
上写真:牡蠣蕪。
北海道・仙鳳趾産の牡蠣を使用し炊き合わせた。大ぶりの牡蠣は身が柔らかくクリーミーな味。削り昆布の風味が旨みを際立てる。
中写真:あん肝のムース。
あん肝をくずし、アンコウの身と大根を入れて蒸し上げた。橙酢を使った自家製ポン酢あんは醤油の風味が濃厚で、あん肝に合う。写真は2人前。
下写真:主人の加藤雄介さん。
1979年愛知県豊田市生まれ。豊田市内のホテルで約15年和食の経験を積んだ後、市内の店でさらに腕を磨いて独立。
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